【取材】株式会社SAKURUG(サクラグ)/就業時間の自由化・評価と既成概念の除去がカギ

ウーマンエンパワー協会では、さまざまな企業の取り組みや専門家の取材をしています。

今回は、株式会社SAKURUG(サクラグ)の取り組みについて、執行役員で時短ママでもある木村杏子さんに伺いました。
SAKURUGは2012年設立、従業員94人(2022年4月現在、グループ含む)で、
クリエイティブテクノロジー事業(WEB 制作やシステム開発)と、リクルーティングエージェンシー事業(D&Iを推進する採用マッチングプラットフォーム「Sangoport(サンゴポート)」の運営や人材紹介)を展開しています。

【事務局/谷平・以下、事務局】御社は、事業そのものもテーマがD&Iであり、社会参加にハードルを抱えている人向けの求人マッチングをされているということですが、最近はどういった求人が増えているんでしょうか?

【SAKURUG/木村杏子氏、以下、木村】「Sangoport(サンゴポート)」は、性別、年齢、国籍に関係なく 多様なバックグラウンドの人が活躍できる求人を掲載をしています。時短、タイムフリーやフレックスなど子育て女性向けの案件は多いですね。
企業として多様性を活かしていく姿勢を見せることが世の中に求められてきています。

【事務局】木村さんは 3年前に派遣の広報として入社し、2年前から正社員になりました。その後D&I推進室長を兼務されて執行役員になられたということですが、働き方に関わらず機会が提供されているということでしょうか?

【木村】弊社代表もよく言っているように、SAKURUGは「平等」ではなく「公平」な機会の提供があります。働いている時間の多さではなく、本人の努力や、どれだけコミットしているかによってチャンスを公平に与えてくれます。
私自身、子育てしながらできることは多くないと思い込んでいたところがありますが、例えば全社総会 の運営を任されるなど、「時短でそんなことまで任せてもらえるのだ」と自分のイメージをいい意味で壊されました。

1年前 にD&I推進室が立ち上がりましたが、D&Iという言葉を社内で聞かない日はないというくらいになっています。
社内外でセミナーを開催もしており、全メンバー参加型で「自分が気づいていない特権に気づくワークショップ」だったり、「男性育休にまつわるセミナー」なども実施してます。全社のD&Iグループチャットもあり、誰でもD&I情報についてコミュニケーションがとれるようにしており、D&Iという概念を根付かせていますね。

【事務局】時短ママが3年前の3人から約20人 に増えたということですが、どのように成果につなげているんでしょうか?

【木村】まず、私の前にも2人時短ママがいたのですが、この時短人材の大活躍が社長にもポジティブな衝撃だったようです。
元外資系の秘書が入社してくれるなど、ベンチャーが優秀な人材を確保するのは大変ななかで、時短ママたちが結果を出してくれたことで、環境を整備しながらもっと入社いただこうという流れになりました。

【事務局】時短人材が成果を上げられる環境づくりは具体的にどうされましたか?

【木村】まずは、就業時間の自由化です。9時~19時の間で就業時間を自由にするかわりに、任された業務ハンドリングは確実にやってね、という形にしました。
時間を自由にしたことで、「家族に負担をかけているかもしれない」というネガティブな足かせがはずれたほか、時短メンバーのグループチャットで相談できる場もあり安心感にもつながっています。
また、固定給だと、 子どもの都合で抜けなければいけない場合に「本来いなければならない時間に抜ける」ことになってしまい、それが罪悪感に繋がりやすいため、弊社の時短メンバーは時給制が基本です。その方が働く側も気持ちがラクだという意見も多いですね。

【事務局】障碍者やシニア雇用もすすめているということですが?

【木村】色々なメンバーと一緒にコミュニケーションをとりながら仕事をしてもらうことで、社員の既成概念を取り除くことにもつながっています。
70代の方にも、監査役やアドバイザーとして活躍していただいています。
平均年齢が31歳の若い会社なので、ベテランとしての経験が助かっています。
障碍者の方には資料作成をお願いしました。朝・夕で複数人とのコミュニケーションタイムもとっています。

【事務局】頭ではわかっていても多様性をいかす、多様な人を雇用するということに難しさを感じている企業は多いですが、その重要性についてどうお考えですか?

【木村】多様な人材を受け入れることは経営上のメリットが大きいです。
ベンチャーは1つのポジションに1人を雇うのは多すぎる場合がほとんど。そのポジションの1歩目に、即戦力の時短人材にきてもらえると、雇用前・雇用後のコストも削減できます。
そこから業務が広がっていって、また時短なのかフルタイムの方を採用するのがいいのか、といった展開がありますね。弊社は法務、内部統制、広報、経理、営業など多くのポジションで時短メンバーが 経験と専門性をいかして活躍しています。

【事務局】リソースの限られる企業こそ、時短人材を活用するメリットは大きいということですが、企業としてできることは何だと思いますか?

【木村】会社も本人も、時短ママのできる仕事に対してこの程度までしかできないのではないか、といったイメージや思い込みがあります。
それをいい意味で塗り替えてあげることが会社としてできるエンパワーメントではないでしょうか?
私自身、色々任せてもらえたことで「あ、こんなことまでやっていいんだ」とインポスター症候群(※)をうまく乗り越えさせてもらえました。

どうしても女性は空気を読む、わきまえる、というメンタルブロックがかかりがち。
「目は離さず、手は離す」で権限委譲しながらこのブロックを解除してあげることが大事だと思います。

(※)自分の達成を内面的に肯定できず、自分はインポスター(詐欺師、偽物)
であると感じる傾向。自分自身を過小評価してしまう心理状態。

【事務局】多様な人材に活躍してもらう環境として他に大事なことは何でしょう?

【木村】やはり距離がトップと近い中小企業は、トップから繰り返し発信し続けることが大事です。
また、先ほど申し上げた「D&Iという概念・言葉が毎日当たり前に聞こえる環境」以外に、「生産性に重きをおいた評価」をしています。

我々は時短メンバーの呼称は「時短スペシャリスト」としています。
各ポジションの人月に対して、これだけこなした、とわかるようにしており、いかに短時間で高い成果を上げられるか?を重視します。
なので、時短は「早く帰れて羨ましい」ではなく、「こんな時間しかないのにこれだけ成果をあげている」という見方になります。

SAKURUGの代表は「家族より大事な仕事はない」といつも言います。
家族に何かあっても社内の評価は落ちません。
社外に対しては、メンバー同士でカバーしあいます。

【事務局】単なるCSRやPRではなく、地に足のついた本質的な多様人材の雇用をされていらっしゃる印象を受けましたが、多様な人材や働き方を受け入れる上でのマネジメントは難しさもあるかと思います。

【木村】完全リモートの人やハイブリッド型で出社している人などいろいろな働き方の社員がいます。整備の考え方としては、「性悪説に基づいて制度をつくり、性善説に基づいて運用する」です。
例えば入社後一定期間は、1時間ごとに専用メールに業務進捗を報告するように、などのルールを入れるなど、性善説の運用だけれども悪用されない仕組みづくりというのは意識しています。

株式会社SAKURUG 執行役員 木村杏子


■プロフィール
医療関連会社でのマーケ部門立ち上げや、産学協働の公共貢献施設での現場コミュニケーションリーダーを経て、2020年9月広報担当としてサクラグに入社。
2021年4月にD&I推進室長就任。バックパッカーとして世界33ヶ国を旅した経験を活かしながら、サクラグで働く一人ひとりが「広義での多様性を認めること」や「世界中の誰ひとり取り残さないこと」を目標として行動できる組織づくりを目指し、広報とD&I推進室を統括。

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